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大規模災害から国民の命を守る

直言 第3回

2014年04月01日

地域再生

所長
稲葉 延雄

 3.11から3年が経過したが、その一方で、大規模自然災害が新たに発生する蓋然性も高まっている。死者・行方不明者合わせて1万8000人余にも達した大災害の悲しみは今なお癒えることはないし、震災からの復興も途上である。だがそれ故にこそ、次の災害に備えて国土を一層強靭なものにしていく努力を怠るわけにはいかない。これまで営々と培ってきた防災・減災の英知に東日本大震災の尊い経験を重ね合わせ、大規模自然災害から真に国民の命を守っていける社会を構築する─。これこそ、自然災害の多い日本列島に住む私たちに課せられた責務である。

 大規模自然災害に強い国づくりに向けて、政府の取り組みも本格化している。昨秋には首都直下地震や南海トラフ地震への対応策として、国会で国土強靭化基本法が成立し、それを受けて政府は国土強靭化政策大綱を決定した。ただ、その取り組み内容をみると、政府が主体的に行う政策をまとめたという制約からか、国としての対応が中心となっており、民間や自治体の役割があまりとり上げられていない。また、ハード面(防潮堤など防災のための社会資本)の整備だけでなく、ソフト面(防災教育や避難訓練など)での対応の重要性も一層強調されてよいように思われる。

 実際、大規模災害から国民の命をハードの社会資本だけで守ろうとすると、その規模、コストとも巨大かつ巨額になり、財政的にも対応が難しい。むしろ今回の震災では、教育や訓練などソフト面の対応のおかげで、多くの命を救うことができた事例が各地から報告されている。防災・減災をすべて「公助」に頼るのではなく、災害の悲惨さを伝承する教育や災害から身を守る日頃の訓練など、住民による「自助」と地域コミュニティの「共助」がもっと重要視されるべきである。

 一方、災害発生時の対応として、産業界でも業務継続を通じて財・サービスの供給責任を果たすことが一層強く求められる。特に災害発生直後には、情報通信や物流、金融、さらにはエネルギー供給のネットワーク機能の確保が極めて重要になる。この面では、公的当局と民間の役割分担が不可欠である。

 そのためには、まずもって個別企業におけるBCP(業務継続計画)の確実な実行が求められる。また、業界全体あるいは業種を越えた業務連携を実現する必要もある。しかし、平時の業務体制が有事に必ずしも最適とはならない面があるし、災害発生時には本社機能の喪失や情報遮断、輸送の機能不全など、様々な障害が予想される。

 したがって、企業としても平時から日々の業務の中に、災害対策に関する「ホットスタンバイ」(普段からバックアップを想定して通常業務を行う組織)となる施策を組み入れておくことが重要である。大規模災害に対して、こうした努力は強靭な企業組織を構築するために必須な活動である。同時に、災害発生時の企業活動の継続はそれ自体が重要な社会的責務を負っていることを、産業界も改めて強く自覚する必要がある。

稲葉 延雄

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※この記事は、2014年4月1日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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